うまくいえないけれど…
「今節は、出場を辞退した同期のために、がんばります」
真っ直ぐな瞳でそう宣言したのは、競艇界でも屈指の男前と言われる、赤岩選手でした。
出場を辞退した同期の選手…
たくさん活躍されている方なんですが、
どうしてもその名を聞くたびに甦ってしまうのは、2年前のあの事故…、
転覆してしまった選手が、たまたま後続艇の直前に浮かび上がり、
そのまま接触。不幸にもそのまま亡くなってしまった、あのレース…
彼はまさに、その後続艇に乗っていたのです。
亡くなられた方は、まだ26歳。将来を期待された、若手の一人で、
同じ競艇選手の奥様を残し、遠い世界まで旅立たれてしまいました。
私はそのレースを見てはいなかったのですが、
人の話では、避けようにも、避けようがなかったと言われております。
誰が悪い、そんなことは決められない事故…
それでもきっと、追突してしまったという自責の念を、彼は一生拭い去ることはできないでしょう。
もちろん大会を辞退した理由が、その事故とは限らないのですが、
せっかく出る資格の得られた大きなレースを、立て続けに2本辞退したというだけあって、
なんだか切ない気持ちになってしまいます。
そんな彼へのメッセージで、「あいつのために頑張る」と発した赤岩選手。
男前やぁ…この紹介式だけネット中継で見ていた私は、思わず涙ぐんでしまいました。
結果、優勝こそ逃したものの、決勝戦まで進出したんですから、もう…男前やぁ…
と、なんでこんなことをいきなり書いたかと申しますと、
またショッキングなニュースがあったからです。
群馬県伊勢崎支部のレーサーが、先日オートレース中の事故で、
お亡くなりになりました。35歳という若さでした。
私は、競艇一本ヤリなので、その方を拝見したことはなかったのですが、本当に残念でなりません。
戦うことを仕事とする以上、どんな方の背後でも
つねに「死」というものが、その隙を狙っています。
選手たちは、刻一刻と変わる水面や路面、そしてライバルや己と戦いながら、
同時に自分の身、周囲の身の安全を確保しなければなりません。
これらの作業を、0コンマ何秒の世界でやるなんて、変な言い方ですが、人間じゃぁありません。
ですから、そんな彼らにはソレ相応の報酬が約束されていると思うのですが…
私は常日頃から、競艇場は、コロッセオに似ているなと思っていました。
まるで剣闘士のように、激しくぶつかりあうレース。
昔は血を、今は金を、そして何より名誉を!
大勢の人の欲望がうずまく競艇場にいると、
人間の生というものを、肌から耳から目から、痛いほど感じます。
事故は起こってはいけないものです。
だけど、生きるか死ぬか、儲けるか坊主になるか、そのギリギリの駆け引きが
毛細血管の末端にまで、興奮を流し込むのです。
私たちが目をひんむき、野次り、ほくそ笑んだり、苦い顔したりして楽しんでいるレースは、
人の命や心という蝋を溶かしながら進んでいるものだということを、痛感しながら。
レースでお亡くなりになった、才能ある方々すべての、ご冥福をお祈りいたします。
そして、いつか必ず、今回辞退されたその選手が、
大きな大会の優勝カップを手にしてくれることを信じて。
あ、でも私の好きな選手も優勝してほしい。赤岩選手にも頑張ってほしい。
もう、みんな1等賞!私の中では1等賞!