「父方祖母の33回忌」3話目
★前回までのあらすじ★ 第1話 第2話
キタミの父方祖母が33回忌を迎えた。
不謹慎とはわかっていながらも、こういった時にこそ笑ってしまうのが、世の常。
そして案の定、スタート前から笑いを堪えらず、開始後も、
青筋立てながらプクククと笑いまくる始末。
そして、お経も終わり、木魚叩きというプレイも終わり、ようやく解放される…
と安堵したのも束の間、なんと更なる刺客が待ち受けていた!
いったいこの後、無事に33回忌を終えることができるのか?!
父方祖母は、呪って出ないのか?!
・・・・・・・・・・・・・・
「えぇ…次は、お歌を歌いましょう。」
?!?!?
お坊さんの口から出た言葉に、キタミ家一同は、思わず固まってしまいました。
いつもの法要にはなかった、新手のイベントです。
歌?歌うの?33回忌で???
ふと気づけば、たしかに、お経の裏に歌詞が載っているではありませんか。
詳しい内容ははっきりと覚えていないのですが、
この世の儚さを感じつつも、信じる心を決して忘れず…ネバーギブアップ…
みたいなラブ&ピースな内容を、古い言葉で綴ったものだったように思います。
しかし、これが長い。ご丁寧に3番まである。
しかも
「1番目を~私が歌いますので~、続けて2番目から~、ご唱和ください~。」
覚えるチャンスがたったの1回である。
えっ、ちょ、待っ
と言う間もなく、お坊さんは1番目を歌い始めました。
~~~♪
~~~~~~♪♪
…むっず!! 旋律、むっず!!!
それに、ちょっと上手くコブシとか回してるのがイラっとくる!!!!
お聞かせできないのが残念ですが、
メロディ的には、どことなく「とおりゃんせ」を複雑化させたような感じです。
それを1度聞いたら、即、2番から合唱せねばならんのです。
「はいっ!」
お坊さんは、これまでで最大の声を出し、参戦を促します。
「これ、歌がプログラムに加わったの、絶対お坊さんの趣味だよ…」と思っていると、
いよいよ2番から、お坊さんと、母と、母方祖母のハーモニーが始まりました。
というのも、私と妹は、口を開けば笑いがこぼれる!と察知し、
必死でモゴモゴ口ごもることしかできず。
父にいたっては、ほぼ聞こえていないので、「これ、何の時間?」と
キョどることしかできません。
そんな様子を見て私は「無理だよなぁ…無理ゲーっすよなぁ…」と、
なぜか冷静に、笑いすら忘れて、このカオスをゆっくり受け入れ始めていました。
その時です。
曲も盛り上がり、3番目へと入りそうな、その瞬間。
「はい、腹から声出してー!」
!?!?!?!?!??!
なんということでしょう。
それまで自信なさげに歌っていた母方祖母が、急にみなぎってしまい、
口をつぐんでいた私達姉妹に(ついでに父にも)向かって、気合の一言をかけたのです!
「腹から声出す33回忌」
ありえますでしょうか??
少なくとも私は聞いたことがございません。
「ほらーっ、歌ってー!」
追い討ちをかけられ、私達姉妹は泣く泣くボソリボソリと歌い始めます。
しかしながら、母方祖母のスポコンばりの一声に、もはや我慢も限界。
オフフフフ…ンフフフフ…と、歌にハミングを入れるような有様です。
なのに、母方祖母は一切手を緩めず、ついには父を見て
「歌ってない…」
と、ご不満の様子。
無理だから!このボリュームじゃ、父の聴覚上、全然聞こえてないから!!
「それじゃあこの歌詞からイメージの湧くメロディを一つ…」
なんつってトシオが即興で作曲の末、シャウトされても、こっちが困るから!!
もう、なんか、ちょっとした動物園みたいになるからーー!!!!!
そんな悶々とした時間は、実際よりはるか長く感じられましたが、
ようやく3番目を乗り越え、最後に「アーメン」みたいな
追加のメロディが何の予告もなく歌われると、実に尻すぼみに、お歌の時間が終了しました。
これで…終わりや…やった…ついに乗り切った!33回忌、ばんざーい!!!
と、もはや趣旨も何もない雰囲気で、一同、いっせいに立ち上がります。
父だけは足がしびれて、仏像のように動けないまま1分ほど座りつくしていましたが、
もう、これまで散々笑いつくしてきた家族に、そんな軽いネタは通用しません。
「さて…」まるでフィットネス帰りのような、心地よい気だるさに包まれながら、
キタミ家は、お墓参りという作業にシフトします。
ようやく神妙なムードになるかと思いきや、そこはキタミ家。そうは問屋がおろしまトン。
これまでの「笑ってはいけない」ルールから解放され、すっかりバカ話に興じます。
それは墓参りの度に120%出る、キタミ家・鉄板の話題。
母方祖母は、東京の下町に住んでいて、自分のご先祖さまたちの眠るお墓を
毎月きちんと訪れています。
私たちはなかなかキッカケがないと行かなかったのですが、
数年前、たまたま私が祖母の家をたずねた際、「行こうよ」と相成ったわけです。
下町というのは、広くて狭いもので、本家・分家・分分家・分分分家じゃないですが、
同じ苗字のお墓がたくさん並んでいるんですね。
特にここは、8割うちじゃね?という、まさにもうこの時点で多くの方がオチを想像できるような
そんなお寺でした。
私が足を踏み入れるのは、実に小学校以来。
当然祖母の後をついていくしかないのですが…
お墓に到着した途端、あふれんばかりの違和感が私を襲います。
「向き…逆じゃない?」
幼い時の記憶では、たしかお寺に背を向けるような方角だったはず…
しかし、今はお寺に面と向かっているのです。
「おばあちゃん…ここだっけ??」
「何いってんのよ」
そりゃそうだよね、毎月通っているんだもの。
それだけ私がちゃんとお墓参りをしてなかっただけじゃないか。
ところが、花を添えた後、丁寧に水をかけはじめた祖母は、
2度、3度と繰り返すうち、次第にお墓のまわりをキョロキョロしはじめました。
そして、まさか、と思った矢先
「ヤベッ」
と一言もらすと、そっと差し込んだお花を、ズボッと勢いよく引き抜き、
これまで見たこともない脅威のスピードで、真裏にある本来の墓に移動したのです。
私がその場に倒れこむようにしてバカ笑いしたのは言うまでもありません。
「一応さ、これも何かの縁だし…」
と、お線香を手向け、ごめんなさいと一言詫びいれておきましたが…
「普通間違う?ねぇ、間違う??」
と、この時も、母方祖母が不機嫌になるほど、笑ってやり、
キタミ家大騒ぎの33回忌は幕を閉じました。
それが、実に(私が書くのが遅いせいで)2011年10月のお話。
この9ヵ月後、まさかその「間違えられた」お墓に、一同、涙ながらに向かうことになるとは…。
この時、誰も知る由はありませんでした。
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